▼物流業界の2024年問題は、結局のところ「ドライバー不足」につきるようだ。これは今に始まったことではない。ドライバーの賃金は1997年頃がピークで、その後ほぼ一貫して下がり続けた。原因の一つは「店着価格制度」という商習慣にある。運賃が商品価格に含まれるため、発荷主と着荷主が運賃込みの店着価格で取り引きするという慣行だ。発注者である着荷主には、運賃、運送契約条件などは知らされない。
▼さらに業界の多重下請け構造が問題を悪化させる。元請けは2次に、2次は3次に、3次は4次の下請けに運送を依頼する。もともと厳しい価格競争の末、安値で受注した仕事が多重下請けでどんどん安くなる。ほとんどの下請けのドライバーに契約内容は知らされず、着荷主から荷待ち、荷役などの付帯作業を求められても断れない。トラック事業者へのアンケート調査(日本物流学会)によると、他社から運送依頼があった場合、全体の約8割が「引き受ける」と回答した。そして、引き受けた輸送依頼を孫請けに再度依頼するとした業者は5割にのぼる。
▼結局、しわ寄せはすべてドライバーがかぶり、ドライバーの年間労働時間は全産業平均より2割長く、賃金は1割低い。求人倍率はずっと約2倍のまま、下がらなくなってしまった。その結果、2024年度には輸送能力が14%、2030年度には34%不足すると予想されている。
▼「安い仕事ほど他社に回す」多重下請け構造は、建設業と似ている。だが、建設業の場合、ものづくりで新しい価値を生み出せるのが強みだ。塗装などの専門工事業でも改修では元請けになれる。ところがトラック運送業の場合、需要は顧客次第のうえ、仕事内容を他社と差別化しにくい。目に見えないサービスを売る仕事は値切られやすい。相見積もりになると、採算を度外視したたたき合いも起こる。ドライバーに大きな負担を強いる荷待ち、荷役は、ほとんどの場合「ただ働き」になってしまう。
▼2024年問題への対応について、日本ロジスティクスシステム協会が今年3月、トラックドライバーの意識調査を行ったところ、回答者の27%が月80時間以上の時間外労働を行っていることが分かった。これでは36協定を結んでいても、年960時間までという上限規制を超えてしまう。規制の実施に対して、不安に思うことは「収入が減る」が一番で、期待することでは「積込先や届け先での待ち時間や荷役時間が短くなる」が最も多い。
▼同じ悩みをかかえる建設業界では、特に技術者の長時間労働が深刻だ。国交省の調査によると、36協定の特別条項を超過する技術者がいる企業は17%もあった。超過技能者がいる企業は4・7%で、なんとか改善が可能なレベルだ。運送業も同じだが、自社だけの努力では限界がある。発注者、関係業界の理解はもとより、建設Gメン、トラックGメンによる監査・指導が必要だろう。