
▼いま製造業や建設業で「フィジカルAI」が注目されている。すでに自動車メーカーの製造現場では、人型ロボットの本格導入に向けた動きが活発だ。ジェトロの「ビジネス短信」によると、トヨタはカナダにある海外最大の製造拠点で、米国ロボット製造企業、アジリティ・ロボティクス社の人型ロボットを導入する。SUV「RAV4」の製造ラインおよび物流工程に投入され、自動搬送機(タガー)から部品入り通い箱(トート)を荷下ろしする作業を担うという。
▼中国や韓国の自動車メーカーでも実証実験や実ラインへの導入が進んでいる。主に部品搬送、組み立て補助、品質検査など、従来のロボットでは困難だった複雑な作業を担う。人型ロボットは、従来の産業ロボットや協働ロボットに比べ、人間が行っていた作業をそのまま代替しやすく、専用の環境が要らない「汎用性」が強みだ。
▼建設業では、まだ本格的な人型ロボットの導入には至っていないが、AIの活用は始まっている。Zen Intelligence社(東京)は、AIと360度カメラを組み合わせたAI施工管理サービス「zenshot」を開発、住宅メーカーの施工管理などに採用が進む。三菱電機と東大発のスタートアップ企業・燈(あかり)は、現場の暗黙知などをAI化する独自のフィジカルAI「Neuro-Physical AI」を開発した。
▼多くの中小企業は「DXも進んでいないのに、AIまでは無理」と思いがちだ。ところが「DXを飛ばして一気にAIを導入することにチャンスがある」という説が注目されている。『日本経済AI成長戦略』(富山和彦著、文藝春秋社)によると、日本型経営の本質は「形式知」より「暗黙知」にあり、DX的世界観では非効率とされていた日本企業の現場文化が、AI時代は逆に有利に働くという説だ。
▼日本の多くの大企業がDXでつまずいたのは「意思決定の層が厚く、社内調整に時間を要し、かつ既存のビジネスモデルと人員配置を守るために、根本的な再設計ができなかったから」(同書)と指摘する。AIは部分最適のツールではなく、事業構造そのもの、意思決定構造そのものを問い直す。このイノベーションは、ホワイトカラー層の厚い大企業より、中小企業のほうがはるかに導入しやすい。要はAIがもたらす破壊的イノベーションの本質は、トップの経営陣と現場の労働者の中間にいた管理職の仕事を代替することにある。そもそも文系大卒の管理職がいない中小企業なら導入も簡単というわけだ。
▼日本企業はDXが進まなかったがゆえに余計なレガシーがなく、AI時代には最先頭に立てるという説は大変魅力的だ。現場にAIを導入すると、レベルアップした技能者が生産性を劇的に向上させる可能性がある。いかにAIを導入し使いこなすか、知恵の絞りどころだろう。(合田)




















